星野源 ドラえもん

正直言って、まだ認めたくない。
できれば星野源が好きだなんて、隠していたい。


FRUITYのメンバーが、どうも新しいバンドをやっているらしい。
YOUR SONG IS GOODを知り、カクバリズムからSCHOOL JACKETSやNUTS & MILKやBOY'S NOWと、また世界が広がって。出会ったのがSAKEROCKだった。
もともと管楽器の音が結構好きで、SKAに飽きた頃に出会って一発ではまってしまった。
DVDまで集めたのは初めてだった。あの頃は小遣いに余裕があった。

そのDVDを見て、実は少し嫌いになった。
「独特なセンスを持っています」的な企画が鼻についた。
ただのライブ映像や、リハーサルや楽屋風景だけではない、きちんと作品として考えて作られていて、他のアーティストのDVDよりは圧倒的に価値のある仕上がりにはなっている。
ただ、鼻につく。
「独特ですよ」「分かる人だけ笑ってくれればいいんですよ」感。分からない人はダサいとされてしまいそうな雰囲気。
ありきたりではつまらないが、突き詰めすぎてもつまらない。そのバランスが良くなかったかと思う。

その中の1シーン。
ライブ前の空き時間に、星野源が観客もメンバーも誰もいないステージで「老夫婦」を弾き語りしている。
後に星野源のアルバムに収録されるが、当時はSAKEROCKの曲として、インストでリリースされているので、その映像で初めて弾き語りスタイルを聴いた。

聴いたことのないテーマの歌詞。
新しい発明に出会ったの瞬間だった。

弾き語りに興味はない。
音楽はうるさくて速いほど好きだったが、この弾き語りには何かを感じた。

DVDのそのシーンで星野源
実は老夫婦は、弾き語りスタイルが先にあったこと。
弾き語りの状態を、あまり人に聴かせたくなかったこと。
撮られていると分かっていたら歌っていなかったこと
等を語った。

端的に

うるせ。

と思った。

じゃ歌うなよ。わざわざステージで。
撮られてると気付いた時点でカットすることも出来たのに、DVDにいれちゃってるじゃねぇか、と。


SAKEROCKの曲はほんとに良くて、ほんとに好きで。
でも星野源の事は好きになれないと思った。

後々、星野源の1stに老夫婦は収録されると聞いて、アルバムを買ってはみたが、やはり弾き語りは受け入れられず、すぐに売ってしまった。

数年して、SAKEROCKは解散した。

星野源はぐいぐい活躍し、追っていなくても耳に入るようになってきた。
映画「地獄でなぜ悪い」の主題歌や、テレビから聞こえてきた「恋」。曲の端々から、SAKEROCK感がバシバシ漂っていた。
ここにいたんだと。
もう聴けないと思っていたSAKEROCKは今、バンドスタイルになった星野源のところにいるんだと。
嬉しかった反面、本当に複雑だった。

今さら星野源が好きなんて言えない。
今さらCDなんて買えない。


YOUTUBEでこそこそ星野源を聴くが、ちゃんとしている。途中でプロモーション映像が入り、フルで聴けないようになっている。
当たり前だわ。
観念して中古を探すが、高い。下手したら定価より高い。

もやもやと、悶々と。夜な夜なYOUTUBEで聴く毎日。

そこにアップされたのが「ドラえもん」だ。


まさに秀逸。



まず、ドラえもんの為に作られている。
ドラえもん以外で使う気がない。

名曲とされている、秦なんとかさんのドラえもんの歌。
サビしか聴いたことないけど、いいんでしょう。たくさんの方が、あの曲で感動されたんでしょう。
でもね、ドラえもん感が一切ない。ずーっと愛されようとしてるんですよ。現に最近ドラえもん全く関係ない所で使われているのを聴く。
いや、それでいいんです。それが当たり前。
みんな折角曲を作るんだから、できるだけ普遍的に、1曲1曲の寿命は長くしてあげたいのが親心。

しかし星野源ドラえもん
ドラえもんの為だけの曲なんですよ。
この先何かに使われることもないし、下手したらライブでだってほぼやらないでしょう。

使い捨てなんですよ。
でも使い捨てにしては力が入りすぎている。込められ過ぎているとこにすっかり熱くなってしまった。


Aメロから

少しだけ不思議な普段のお話
指先と机の間 2次元
落ちこぼれた君も 出来すぎあの子も
同じ雲の下で 暮らした次元
そこに4次元

藤子不二雄のテーマ「SF=少し不思議」をまず1行目に。
指先にはペンが握られ、机の上には原稿、そこに3次元の世界が描かれて、4次元ポケットから物語が産まれる。
机に向かう藤子不二雄の姿に始まり、1次元であるペン先、2次元である原稿、3次元の日常から4次元ポケットの中身まで、Aメロだけで表現される世界の壮大。

もう才能がエグい。


有名な「あったまテッカッテェーカ」のメロディを、ちゃんとラララで歌ったら感動的な歌に聞こえる遊び。

そして「君を作るよ」の一文。
ドラえもんにまた会うために、のび太が猛勉強してドラえもんの開発者になる、あの有名な都市伝説的な最終回にまで触れる遊び。

使い捨ての曲に、こんだけ色々詰め込んでるんですよ。
あー、鼻につく。

曲はほんとに良くて、星野源はほんとに鼻につく。

認められない。
どうしても新品で買いたくない。
このモヤモヤをいつまで抱えなければいけないのだろうか。