Wienners TEN

まず思ったのは、隙間がないという事だった。
シンセサイザー?と呼ぶのだろうか、この楽器の事は良く知らないのでとりあえずキーボードと呼ぶが、良く聴くとキーボードやギターが色んな所にいる。音にならない音と言うか、形がない音と言うか。空間がぴったりと埋まっている感じ。と言っても音が厚いとか重いと言う訳ではない。
このクオリティ、密度で作られたCDは今まで買ったことが無かった。今までそこに気付けなかっただけか。これがメジャーのクオリティなのかと、幼稚な感想を持った。


ボーカルの声が変わった。
SCHOOL YOUTHやWienners結成当時は、喉に負荷をかけた、ディストーションがかかったような声をしていた。このアルバムでは、喉の広がった声をしている。
これが腹式呼吸と言うものかと、またも間抜けな事を思ったが、このアルバムの曲がディストーションのかかった声を必要としていないだけかも知れない。


そもそもメンバーが変わった。
キーボードメンバーの交代。
先述の形のない音もそうだが、歌唱力と言うのか、表現力に関してもクオリティが高い。「技術」だ。彼女も腹式呼吸が出来ているのだろう。

以前のキーボードは「味」。機械的な抑揚の無い形でシンプルだが印象的なメロディを演奏し、歌っていた。
新しいキーボードは、形のない音で複雑な演奏をし、歌唱力で、技術で歌っていると感じた。
どちらがどうという話ではないが、僕は「味」の方が好みだ。

ドラムメンバーの交代。
これもタイプが違うドラムになった。
SCHOOL YOUT中期のドラムは、何か曲にエッセンスを加えようと、自由さが伺えた。SCHOOL YOUTH後期からWienners前半のドラムは変則な曲に合わせて手数を入れていて、今回のドラムは曲を最優先していると言うか、曲が求める、必然的な形で演奏している。
彼の別バンド、WUGWUMPSでは、曲調にしては手数の多いドラムを叩いているので、ただ手数を必要としない曲になってきているという事か。
後、音。
1打1打がきちんと打ち込まれている音がしている。太鼓の皮だけでなく、太鼓が鳴っている。MUGWUMPSの色が伺えて面白い。
ほんとに若干、ハイハットの裏打ちが重く感じる時があるが、打ち込むタイプのドラムには少し難易度が高いかも知れない。この部分は前のドラムは非常に上手かったと思う。


1曲目、TENとアルバムのタイトルになっているので、オープニングとして作られたのであろうか。だとしたら少しくどいかと。上がっていく感じは十分良くて、後は短くスパッとまとめた方が始まりにふさわしかったと思う。

2曲目、「決して一人じゃない」「どんなときも君を見てるよ」「手を振ってさよならしなくちゃ」「出会えた喜び」「別れの悲しみ」「say goodbye to my friends」「オーシャンブルー」挙げたら切りがないくらい、歌の中でしか存在できないような恥ずかしい言葉がこれでもかと詰め込まれている。J-POPの手垢が付きまくった歌詞、Wienners特有の変則な展開もなくストレートな曲。なのに何だか、捨て曲だと放っておけない何かを持っている曲。気がついたら口ずさんでいる。
「言葉が魚みたいに空中を泳ぐ」は、break fastの「魚になった言葉が泳ぐ」を毎回思い出す。
中盤のキーボードの歌、「届かない」の「か」のエモさに毎回ひっかかってしまう。

4曲目、名前から実は結構期待したが、思っていた内容では無かった。
Making the road bluesのように、これが誰かのハードコアを聴くきっかけになるのだろうか。

8曲目、マイノリティのギターソロの始まりで、思わずニヤついてしまった。
僕たち世代ど真ん中の、パンクの典型パターンのソロ。ブレイクから、パワーコードの真ん中を抜いて上下2本だけ弾くやつ。昔友達の家で読んだGOING STEADYのスコアのメンバーの解説に、このパワーコードの真ん中を弾かないのがミソ!みたいに書いてあったのを思い出した。
彼ららしく無さ過ぎて、使い古された手法が新鮮に感じた。彼らのルーツにはもちろん青春パンクもあるだろうが、手法は似ても曲は似ない。


最後の愛鳥讃歌、キーボードが一人で歌う曲をアルバムの最後に持ってくる。コーラスもキーボード本人。
確かに男声が合わない気もするし、だからそこ男声コーラスで聴いてみたい気もする。
全体に漂う壮大さで、普通に何度も聞き流していて気が付かなかったが、これこそ変則的な曲で。
普通に4拍子で始まって、いつの間にか3拍子になっているけど、ドラムが2ビートで演奏するから、さも4拍子。間奏部分では5拍子と言うか、3拍と2拍が並ぶ箇所もある。なのに違和感無く、ストレートに聴かせる世界観。

きっと彼らはメッセージを重要視していない。
が、全体を通して、伝えたい事が有るような部分もいくつかあって。そのせいで、メッセージが無いようで有るし、有るようで無いと感じる。こういうのを空気感とか世界観とか言うのだろうか。
変則的な展開が減りストレートな形になったのもその世界観に繋がっているかも知れない。

今気が付いたが、ベースに関しては何も思うところがない。聴き込みがまだ足りない。


ぼくはきっとライブには行かない。
観たい気持ちはあるが、Wiennersの対バンには興味がないし、ワンマンに行くのはハードルが高い。ファンのせいでバンドを嫌いになることも多い。
だから僕にできる応援はCDを買うことだけだ。
過去の作品も少しずつ追って購入しようと思う。